「AIによる字幕表示機能」で、改正障害者差別解消法にも対応。誰もが参加しやすい株主総会を目指した住友商事の想い
住友商事株式会社 様


- 企業名
- 住友商事株式会社
- 企業概要
- 2019年に創立100周年を迎えた総合商社。 全世界に展開するグローバルネットワークとさまざまな産業分野における顧客・パートナーとの信頼関係をベースに、多様な商品・サービスの販売、輸出入および三国間取引、さらには国内外における事業投資など、総合力を生かした多角的な事業活動を展開している。
- 業種
- 卸売業
- 株主数
- 293,325名(2025年9月30日現在)
- 決算期
- 3月
- 上場市場
- 東京証券取引所 プライム市場
- 証券コード
- 8053
2024年4月に改正障害者差別解消法が施行されたことを期に2025年6月の株主総会のライブ配信で「AIによる字幕表示機能」を導入。株主総会後のアンケートでは回答者の約40%が同機能を使用したと回答するなど、株主からも評価を得ています。今回は、株主総会における障がい者対応、AIによる字幕表示機能を導入した際の課題や準備、当日の運営などについて、文書総務部の廣瀬 高好さまと小林 剛さまにお話を伺いました(以下敬称略)。
より良い株主総会を目指し、事前質問を含めたハイブリッド参加型バーチャル株主総会を継続開催
ハイブリッド参加型バーチャル株主総会を開始されたきっかけや、VSMプラットフォームを導入された経緯を教えてください。
小林:当社ではコロナ禍をきっかけに、2020年から株主総会のライブ配信を始めました。コロナ禍以前は株主様が1,000名以上来場できる体制を整えていましたが、感染拡大防止のために250名程度に制限せざるを得ませんでした。ご来場を控えていただく代替手段として、ライブ配信で株主総会をご覧いただけるようにしました。
その後、より良い株主総会を目指してオペレーションの見直しを行う中で、当社の決算説明会をご支援いただいているリンクソシュール様からICJ様のVSMプラットフォームをご紹介いただきました。検討を進める中で、VSMプラットフォームは世界約40以上の国と地域のバーチャル株主総会で利用され、高い知名度と信頼性がある点を評価し、2022年から導入しています。その際には、仮に将来バーチャルオンリー総会へ移行が必要となった場合にも、同開催形式の支援実績が豊富なVSMプラットフォームであればトータルサポートが受けられるという点も決め手になりました。結果として、2022年以降はプラットフォームとバーチャル株主総会の実務面についてはICJ様に、ライブ配信の映像についてはリンクソシュール様にご支援をいただき、継続してハイブリッド参加型バーチャル株主総会を開催しています。
廣瀬:全国にいらっしゃる株主様が場所を問わずに参加いただけることは、バーチャル株主総会の大きなメリットだと感じています。2021年まではライブ配信のみでしたが、2022年以降はVSMプラットフォームを活用して事前質問の受付を行っています。株主様が関心を持たれるポイントを事前に把握できるため、当日の質疑応答の充実にもつながっています。

改正障害者差別解消法の施行を期に「AIによる字幕表示機能」を導入
他社事例が少ない中、2025年6月の株主総会からAIによる字幕表示機能を導入されています。その理由や背景を教えてください。
小林:2024年4月に改正障害者差別解消法が施行され、事業者の「合理的配慮の提供」が義務化されました。当社では2年前から、リアル会場での車いすスペースの設置や受付での筆談対応を行っていましたが、このタイミングを機に、ほかにどのような取り組みができるかを改めて検討しました。
廣瀬:障がいによって抱える課題はさまざまです。そのため、他社事例も参考にしながら、株主総会で実現できる対応を社内で議論しました。例えば、耳の不自由な方への対応として手話通訳を行う企業もありますが、当社ではリアル会場の来場者とライブ配信視聴者の双方に対応でき、コスト面を含めて過度な負担がないAIによる字幕表示機能(以下「字幕表示」)の導入を決定しました。

今回、字幕表示はどのように運用をされましたか。
廣瀬:今回導入した機能は、議長や株主様が発言した内容を、AIによって自動的かつリアルタイムで文字起こしを行い、ライブ配信画面上に字幕として表示するものです。ライブ配信視聴者に対しては、VSMプラットフォームのライブ配信画面上にボタンを設け、字幕表示の有無を選択できるようにしました。リアル会場の来場者については、当初会場前方のスクリーンに字幕を表示する案もありましたが、本来伝えたいメッセージ以外の部分が強調されてしまう懸念があるため、リアル会場で耳の不自由な方で字幕表示を希望される方向けには会場受付でタブレットをお渡しし、ライブ配信画面上の字幕をご覧いただく運用としました。
小林:ユーザーインターフェイスについては「字幕が不要の方もいらっしゃると思うので、字幕の有無は選択できるようにした方がいいだろう」という社内の意見を受け、字幕表示の有無を選択できる仕組みを検討しました。
廣瀬:「字幕を利用しない方に対する配慮も必要」という意見でしたね。完全に切り替えるのではなく、障がいのある方もスムーズに視聴できるように、現状の仕組みに機能を追加していくという考え方で進めました。

「字幕の精度」をはじめ、さまざまな課題を一丸となって乗り越えた
字幕表示の導入過程では、どのような課題がありましたか。また、どのように解決されましたか。
廣瀬:課題はたくさんありました。まず「字幕の精度」です。この課題については、前年の株主総会の録画映像を使用して字幕の正確性を検証していただき、話し方や長さによって変化する字幕の精度を確認しました。最終的にはリハーサルで確認して、補助機能として活用するには十分な精度だろうとの結論に至りました。
小林:字幕の精度については、VSMプラットフォームのログイン画面とメイン画面に、字幕表示の利用に係るご案内を記載しました。具体的には、「AIにより自動で字幕が作成されるものであり、完全なものではなく、誤認識・誤変換が起きることがある」ことや、「通信環境等により、字幕配信が遅れたり、途切れたりする場合がある」旨を記載しましたが、その際には、ICJ様に他社の記載事例の共有を含め、文案の作成をいただき大変助かりました。
そのほか、「ライブ配信映像のどこに・どの長さで・どのくらいのスピードで字幕を表示させるか」という点も課題でした。具体的には、議長席の前に企業ロゴがあるため、字幕と企業ロゴが被らないように字幕の表示位置やカメラの画角を調整する必要がありました。リンクソシュール様に字幕の表示位置や文字の大きさ、スピード、行数などを場面ごとに細かくご提案いただき、一番見やすいと思う形に収めていただきました。
ほかにも、質疑応答中の字幕の見え方について、例えば株主様の発言中に社長の顔が映っていると、字幕のみでご覧になっている方は誰の発言かわからなくなる可能性があります。そのため、リアル会場で株主様が発言される際は「質問中」というスライド(蓋絵)をライブ配信画面に表示させることで、字幕と映像に誤解がないようにしたほか、念のため、当社側で字幕を強制的にオフにできる機能も搭載いただきました。
廣瀬:リアル会場でのタブレット貸し出しにおける字幕対応では、「ライブ配信映像のタイムラグ」が課題でした。具体的には、リアル会場とタブレット上のライブ配信映像では20〜30秒のタイムラグ(ライブ配信映像の方が遅い)があるため、リアル会場内でタブレットの字幕をご覧になる方には、目の前で話している内容が字幕として遅れて届いてしまいます。少しでもこのタイミングを改善できないか、リンクソシュール様に相談したところ、タイムラグを短縮できるサーバーへの切り替えをご提案いただき、リアル会場におけるオペレーションの課題について改善を図ることができました。
そのほかにも、字幕表示を使用するにあたって具体的にどのようなリスクがあるのか、それに対してバックアッププランの必要はあるのかなどを、まとめていただきました。それらを踏まえた上で、仕様の方向性を決めていきました。

2〜3週間に1回の頻度で密に連携。素早い対応がありがたかった
株主総会当日まで関係者とどのように準備を進められましたか。
廣瀬:字幕の仕様検討を含めて、綿密な打ち合わせを重ねながら進めました。基本はメールでのやり取りでしたが、2〜3週間に1回は当社、ICJ様、リンクソシュール様、その他の外部委託企業様が集まり、情報共有を行いました。私は当社の総会業務に携わって2年目で、全体を十分に把握しきれていない部分もあり、各社との役割分担・連携に難しさを感じることもありました。例えば、株主認証や事前質問、アンケートなどのプラットフォームの設定や機能はICJ様の担当ですが、ライブ配信映像の配信はリンクソシュール様の担当となります。加えて、会場のカメラ設置や撮影は他の外部委託企業様の担当というように分かれているので、密な連携が欠かせませんでした。課題が出た際は、各社様が「こちらで検討します」と主体的に動いてくださり、議論が宙に浮くことなくスムーズに準備を進められ、大変ありがたかったです。
全体を通してICJとリンクソシュールの対応で印象的だったことはありますか。
廣瀬:字幕表示を含めて、当社はテクニカルな部分についての知見が少ないため不安を感じていました。しかしその中で、どのような課題やリスクが想定されるかをまとめていただき、さらにそれらに対する解決策までご提案をいただけたので、とても安心できました。こちらですべて検討して指示するのではなく、当社の要望に応じて、伴走するようにご対応いただけました。
また、いつも迅速な対応をいただけたことが印象的でした。株主総会の準備では複数の関係者で連携して対応する事項が多くあるため、即座にレスポンスをいただけたことで、その後の確認や調整がスムーズに進み、大変助かりました。
小林:当社の株主総会は6月開催ということあり、時期的に他社様のサポートも数多くあったかと思いますが、いつもタイムリーに対応いただきましたね。また、株主総会当日はリアル会場のケアに集中してしまうため、VSMプラットフォームの操作やライブ配信に割ける事務局の人員は限られてしまいます。そのため、リハーサル、本番を含めてICJ様とリンクソシュール様のご担当者に同席をいただき、システムの操作サポートやライブ配信映像の監視をいただけるのは非常に心強かったです。
廣瀬:私は第一事務局として議長の背後に着席し、小林はリアル会場全体の指揮を担当しているため、株主総会当日のVSMプラットフォームの操作やライブ配信映像対応はICJ様とリンクソシュール様にかなりの部分をお任せしています。株主総会というミスが許されない中でも、2社のご支援があることで、安心して自分の担当業務に専念することがでています。

アンケート回答者のうち40%が字幕表示を使用。「補助機能として十分役立った」という声を複数いただく
字幕表示について、株主様から反応はありましたか。
小林:リアル会場では約300名の株主様にご出席いただいた一方、VSMプラットフォームでは400名以上にライブ配信を視聴いただきました。ライブ配信の視聴者を対象とした、株主総会終了後のアンケートでは、回答者の約40%の方から字幕表示を「使用した」との回答をいただきました。
アンケートのコメントには、「補助機能として十分役立った」という声を複数いただきましたので、今回字幕表示を導入した意味があったと思います。一方で、「精度については将来的に改善を期待したい」という声もいただきましたので、今後の課題と考えています。
廣瀬:「次回の株主総会でも字幕表示を提供してほしい」という声もいただきましたね。おそらく聴覚に障がいがない方々も使用されたのではないかと思います。
また、字幕表示以外では、「全体として通信が安定していて、映像、音声ともに問題なく見やすかった」という声もいただき、ライブ配信としても高い評価をいただくことができました。
上場企業として、すべての方がストレスなく株主総会に参加・出席できる環境整備が大切
今後、株主総会で取り組まれたいことはありますか。
小林:株主総会終了後の事後配信で正確な字幕をつけている企業があり、視聴者にとって有益だと思いました。例えば、再生スピードを上げて視聴する際に、字幕があるとわかりやすいですよね。利便性を向上させる取り組みの一つとして検討してもよいのではないかと思っています。
廣瀬:株主総会当日にライブ配信を視聴されなかった方もいらっしゃると思いますし、私も事後配信の正確な字幕はニーズがあると思っています。ただ当社の場合、従来から株主総会終了後に早めに動画を公開しており、時間とコストは課題になりそうですね。
小林:当社は上場会社全体の中では比較的先進的な取り組みをしているのではと思いますが、業界内では他にも新しい取り組みをしている企業様もいらっしゃるので、現状の対応に満足しているわけではありません。今後も他社事例を参考にしつつ、株主様の利便性の向上のためにできることを考えていきたいです。

最後に、バーチャル株主総会や字幕表示を検討されている企業の方々へメッセージをお願いします。
小林:バーチャル株主総会は、物理的に会場へ来られない株主様にもご覧いただけるため、「開かれた株主総会」を実現するうえで非常に有益です。上場企業として、前向きに検討する価値のある取り組みだと思います。
字幕表示については、精度を懸念される方もいらっしゃるかもしれませんが、あくまで補助機能として活用するのであれば、非常に有用なツールです。障がいのある方だけでなくすべての方にとって、株主総会の議論の理解を深めるうえで役立つと思います。ICJ様やリンクソシュール様にはノウハウが蓄積されていると思いますので、これから導入される企業様はよりスムーズに実現できるのではないでしょうか。
また、多くの方が株式投資による資産形成に取り組まれる世の中において、上場企業として、障がいのある方だけでなく、すべての方がストレスなく株主総会に参加・出席いただくための環境整備を行うことが大切であると感じています。
廣瀬:新しい取り組みを導入しようとしている企業にとっては、多少のリスクがある中でどのように実現していくかという難しさはあると思います。字幕表示においては、我々はITの専門家ではないため、どの程度のクオリティなのか、実際に見てみないとわかりませんでした。そのため、イメージ通りに実現できるか、1つずつ整理しながら進めました。
さまざまな課題がありつつも、結果としてアンケート回答者のうち40%の方に字幕表示を利用いただくなど、一つの実績として形にできたことに意味があったと感じます。字幕表示対応も一つの例ですが、総会運営では色々な検討事項があるなかで、新しい取り組みをトライしてみることで、その成果をベースに次の取り組みへとつなげていける良い循環が生まれると思いますので、関心のある企業様は前向きに取り組まれることをおすすめします。
本日は貴重な話をお聞かせくださりありがとうございました。
(取材日:2025年10月)
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